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最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)1423号 判決

上告人

高田ヤス

代理人

古賀野茂見

復代理人

田辺幸一

被上告人

小林邦夫

代理人

木村憲正

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人古賀野茂見の上告理由第一点について。

記録によれば、被上告人は、第一審において本件損害金請求の一部を棄却されたため、上告人の控訴に伴つて右敗訴部分について附帯控訴をするとともに、原審においてその請求の趣旨を減縮し、右損害金として、昭和四〇年三月二五日から同四一年三月三一日までは一カ月金四万九四四七円、同四一年四月一日から本件家屋明渡ずみまでは一カ月金三万三九八五円の支払を求めるものとしたうえ、第一審判決中敗訴部分の取消と右金員の支払を求めたのに対し、原審は、右附帯控訴を理由があるものとし、第一審判決につき被上告人の敗訴部分を取り消して前記金員の支払を命ずることに代えて第一審判決を変更する形式をとり、あらためて、損害金請求のうち第一審判決において認容した部分と原審においてあらためて認容すべき部分とをあわせてその支払を命じたものであることが明らかである。そして、控訴審において、かような主文の表示方法が許されることはいうまでもないから、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

同第二点について。

原審は、被上告人と上告人との間に成立した元金一七〇万円の金銭消費貸借については、金員の交付が四〇万円と一三〇万円の二口に分けてされたため、右交付金員のそれぞれのために本件家屋を目的とする抵当権設定契約が締結されたが、これに付加して、上告人において右一七〇万円の債務を弁済期に弁済しないときは、その弁済に代えて本件家屋の所有権を被上告人に移転する旨の停止条件付代物弁済契約が成立したものとし、上告人が本件貸金債務を弁済期に弁済しなかつたことによつて、被上告人は、おそくとも、本件貸金の弁済期である昭和四〇年三月一二日(原判決七枚目裏五行目に「一三日」とあるのは、誤記と認められる。)の経過とともに本件家屋の所有権を取得したものと判断している。

しかし、右のように、貸金債務を負担するに際し、抵当権の設定を約すると同時に、またはこれに付加して、代物弁済に関する契約を締結した場合には、特段の事情のないかぎり、代物弁済の予約がされたものと解するのが相当である(当裁判所昭和二六年(オ)第五六〇号同二八年一一月一二日第一小法廷判決、民集七巻一一号一二〇〇頁参照)から、本件の代物弁済に関する合意をもつて、上告人がその債務を履行しないときは目的物件たる本件家屋の所有権がただちに被上告人に移転する趣旨の停止条件付代物弁済契約が成立したものと解するためには、そのように解しべき特段の事情を明らかにしなければならないのに、原判決はこれを明らかにするところがない。のみならず、原判決の確定するところによれば、本件消費貸借契約には、四〇万円と一三〇万円の債務のそれぞれについて毎月末日払の利息約定があつて、その支払を怠つたときは上告人は期限の利益を失い、爾後、約定の利率にしたがつた遅延損害金を支払う旨の特約が存在したというのであるから、本件の代物弁済に関する合意は、かえつて、原審が説示するような停止条件付契約ではなく、代物弁済を成立させるには、本件債務について期限の到来後、債権者である被上告人において予約完結権を行使することを必要とする代物弁済の予約であると解すべき事情が明らかであるものといわなければならない。

そうすると、本件の代物弁済の合意をもつて真正の停止条件付代物弁済契約であると解し、上告人が弁済期に債務を弁済しなかつた事実のみを確定して、本件家屋の所有権は被上告人に移転したものと判断した原判決は、代物弁済に関する契約の解釈を誤つた結果、審理不尽、理由不備の違法をおかしたものというべきであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

そして、本件記録に徴すれば、被上告人は、原審において本件代物弁済に関する合意をもつて代物弁済の予約であるとする趣旨の主張をもしていることが窺われ、また、本件債務の弁済期到来後である昭和四〇年三月一七日上告人に到達した内容証明郵便をもつて、本件家屋は代物弁済によつて被上告人の所有に帰した旨通告したとの主張をしていることが明らかであるから、原審としては、被上告人の主張の趣旨を釈明し、代物弁済予約の完結権の行使の有無、効果について審理する必要があるものといわなければならない。

よつて、民訴法四〇七条にしたがい、本件を原審に差し戻すべきものとし、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)

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